「夢と占い」『宇治拾遺物語』から。

公開日: 23:00 物語

夢買ふ人

昔の人々は、夢を売り買いしていたそうです。

『宇治拾遺物語』には、「夢買ふ人のこと」という話が伝わっています。

次のようなストーリーです。


・・・

昔、きびのまきひとという若い男が、夢解き女(夢を占う人)のところに行き、夢合わせをしました。そのあと、国守の息子が入ってきました。まきひとは奥の部屋から、こっそりのぞきます。国守の息子は、夢の内容を語りました。夢解き女は、「すばらしい夢なので、あなたはきっと出世するでしょう。くれぐれも夢のことは他言してはなりません」と答えました。国守の息子はよろこんで、上衣を与えて帰っていきます。

きびのまきひとは部屋のすみに隠れてすっかりその話を聴きました。

そして、「今の夢、私にもらうことはできないか。国守はそのうち都に帰るけれど、私はずっとここにいなくちゃならない。だから、ここで出世したいんだ」と言いました。

夢解き女は、「おたくの言うとおりにしたらいいよ。そしたら、国守りの息子がしたとおりに入ってきて、国守の息子が見た夢をそのまま私に言いなさい」と答えました。

きびのまきひとはよころんで、同じように語り、夢解き女も同じように答えます。きびのまきひとは、上衣を与えて帰りました。

その後、きびのまきひとは、学問を熱心に学び、出世して大臣になったといいます。

というようなことがあるので、人の夢をもらうというのは、とっても賢いことだと、『宇治拾遺物語』には記されています。
一方で、きびのまきひとに夢を取られた国守の息子は、ぱっとしない人生を送ったとのことです。もし夢を取られなかったら、大臣になっただろうに、ということで、「良い夢は人に聞かせてはならない」と言い伝えられました。

この物語が教えてくれること

さてさて、この短い物語が、今の私たちに教えてくれるのは、どんなことでしょう?

  1. 夢は将来の可能性を知らせてくれる。
  2. 大事な夢は人に聞かれないようにしよう。
  3. 夢は、秘密を守ることのできる人にだけ話そう。
  4. 他人の夢を、もらうことだってできる。

といったことが挙げられると思います。

「夢解き女」は、現代にもいる占い師とか、あるいは心理カウンセラーなどが、それに相当することを担っているかもしれません。

夢という現象は不思議なもので、思ってもいなかったような人物が登場したり、予想もしていなかった出来事が起こったりします。

目が覚めたとき、今しがた見た夢でどきどきして、「なんだったんだろう」と思った経験は誰しもあるのではないでしょうか?

さて、上に挙げた4つのポイントを、少し検討してみましょう。

(1)夢は将来の可能性を知らせてくれる

フロイトは「夢は願望充足である」と言いました。
「願望」は、将来に向けたことなので、「大臣になりたい」という願望が、「大臣になる」という夢を見させることはありそうです。それで実際に大臣になるかどうかは、本人の才覚や運なども関係しそうですが、まあ確かに、「将来の可能性を知らせてくれる」ということは、ありそうですね。

ユングは、夢は一面的な意識を補償するような役割をもっていると考えていたようです。たとえば、あまりに男性性を強調している人の無意識には、女性的なものが未分化のままに潜んでいて、それが夢に表れる、といったようなことです。
心のありようがよりバランスよくなっていくと、無意識の女性的なものも、意識的・現実的な生活に活かすことができるようになるかもしれません。
そうした意味では、「夢は将来の可能性を知らせてくれる」と言うこともできそうです。

(2)大事な夢は人に聞かれないようにしよう

これには、いくつかの意味がありそうです。

ひとつには、夢には、夢見手も意識していない(かもしれない)とてもプライベートなことがらが表現されることも多いので、むやみに人に話すものではないですよといった意味合いです。

もうひとつは、夢を公に話してしまうことで、夢のパワーとでもいうようなものが、失われてしまうかもしれないということです。

「夢みたいな話だ」「しょせん、夢にすぎないでしょ」「夢見てばかりで現実感がないよね」といった言葉や態度で否認されると、夢のリアリティは容易にかき消されてしまいます。
まだ薄暗い早朝はいきいきとしていたキノコや粘菌が、太陽の光でしぼんでしまうようなものかもしれない。

だから、「これは大事な夢だ」と感じたら、ときには、こっそりひそかに誰にも言わないで、じんわりとフトコロに抱いておくことも必要なのです。

あとは、(4)とも関係しますが、大事な夢を他人に取られてしまわないように。

(3)夢は、秘密を守ることのできる人にだけ話そう

夢を語る相手は選ばなくちゃいけません。多くの人は、他人の夢の話など、興味をもってはいないのです。聴き手がつまらなそうな顔をしていると、夢のリアリティもすぐにしぼんでしまうでしょう。

だから、夢を語る相手は慎重に選ぶ必要があります。

では、どんなことに気をつけたらいいでしょうか?
  • ちゃんとおしまいまで話を聞いてくれる人
  • 解釈やアドバイスを押し付けない人
  • 話したことは、ここだけに留めておいてくれる人
  • 変なことを言っても、変な人、と思わないでいてくれる人
といったことがありそうです。

いずれにしても、「秘密」をもてるのが大事なんでしょうね。

(4)他人の夢を、もらうことだってできる。

「他人の夢をもらう」という発想はおもしろいですね。意識も無意識も、「個人」の内面に閉じ込められている、という考え方では、「他人の夢をもらう」といったアイデアは出てこないんじゃないでしょうか。

夢解き女は「国守りの息子がしたとおりに入ってきて、国守の息子が見た夢をそのまま私に言いなさい」と言います。

同じように夢を語って体験しなおすことで、夢をもらうことができるということですね。



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